【編集だより】
スタンプス・マネーのメンテナンス作業の合間を縫って、以前から少し気になっていた松本清張の「波の塔」を読みました。
登場人物たちがまるで見えない糸に捕らえられて1つの結末に帰結していく過程はとても深度があり、愛の表裏に伸縮する光と影の対立は、やがて深い哀しみに包まれいくつかの不幸へと導かれていきます。
作者は言います。不幸の中にはそれにふさわしい充実があると。
しかしながらふたりの主人公にだけはそれがなかった。
あるのは消滅だけである。
どこにもつながらない道があるとすれば、それは寂寥と虚脱の谷合に走る、不確かな道のりのことだと暗示した作品です。
・・・なかなか精神にパンチが効きました。あとがきにもありましたが、昔は推理小説やミステリー小説の類はまっとうな文学として評価されなかった時代があったようですね。
松本清張はある意味時代に変化を与えた一人の存在として、今もなお我々の胸のうちに生き続けるのかもしれません。